自閉症の掲載
新聞各社は犯人の小島一朗容疑者が自閉症であると報道したものの、その後、削除したようだ。
こちらのブログでまとめられている。
新幹線殺傷事件で容疑者の母親が出した謝罪コメントの報道スタンスが報道機関で結構違う – 斗比主閲子の姑日記
自閉症と犯罪を結びつけると怒る団体がメディアに抗議をするのは、慣例のようなものなので、見出しや内容が変更されたことに驚きはない。ただ、ウェブが発達した現在で新聞の見出しを変えることで期待できる効果などおそらく知れているのではないかと思われる。
それはさておき、小島一朗容疑者は 2017年の2~3月に岡崎市内の精神科で「自閉症」と診断され病院に入院したそうだ。入院の理由はわからないが、自閉症だけで入院ということは不可能である。産経新聞が掲載している母親のコメントで、希死念慮があったようなので、それが原因かもしれない。しかし、希死念慮だけで入院というのは珍しいので、自閉症や他の精神障害による症状が関係しているのかもしれない。この辺りは情報がないのでよくわからない。
誰でもよかった
https://mainichi.jp/articles/20180611/k00/00e/040/163000cmainichi.jp
小島容疑者はなたとナイフを持ち込んでおり「誰でもよかった」と供述しているという。県警は小島容疑者が事前に計画した上で無差別に乗客を襲撃したとみている。
「誰でもよかった」というのは通り魔の供述では頻出する。自閉症・アスペルガー症候群が関係する、自暴自棄の犯行でよくある供述でもある。
例えば、アスペルガー症候群の診断がされていた「名古屋市連続通り魔殺傷事件」の加害者の大野木亮太も同じ供述をしていた。
鳥集徹
鳥集徹は製薬会社の陰謀論をたてたり、子宮頸がんワクチンを批判するような人である。科学的な議論などできていないことは明らかだが、反応のひとつとして興味深いので、メモとして残しておこうと思う。
- 作者: 鳥集徹
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だいたいのところはafcpさんが批判されている通り。
https://twitter.com/afcp_01/status/1011377069001850880
鳥集徹にしろ、引用されている岩波明にしても、自閉症の知識が乏しいようだ。
現在はアスペルガー症候群という呼び名は臨床現場で使用されていません。
と書かれてあるが、臨床現場ではアスペルガー症候群は今でも現役の言葉である。
鳥集徹はアメリカ精神医学会の診断基準のDSMでアスペルガー症候群から自閉スペクトラム症に診断名が変更されたことを考えて、このようなことを書いているのだろうが、DSMがスタンダードとして使用されるのは研究の世界である。厚生労働省の統計など公的なものはWHOの診断基準のICD-10が使用されており、診断名のスタンダードはICDである。ICD-10にはアスペルガー症候群は掲載されている。
ICDは先日改訂されて、ICD-11となったので、公的にはアスペルガー症候群という診断名はなくなることになる。ただ、ICD-11が日本語にまだ翻訳されていない。翻訳が出版され、厚生労働省がICD-11で統計情報を集めるまではICD-10が使われるだろう。向こう数年間はアスペルガー症候群という診断名は使われることになる。
引用がされている、岩波明も発達障害の専門とはいいがたい。豊川の事件の少年には常同性が顕著でなかったからアスペルガー症候群ではないと書かれているが、アスペルガー症候群という診断がされている者のほとんどは、正確には特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)なのだから、常同性がなくても、当時はアスペルガー症候群と判断することにはほとんど問題がない。むしろ、DSM-IVの定めるアスペルガー障害はかなり稀であることが分かっている。
以前に書いた記事で、アスペルガー障害は存在するのか(それほど珍しい)という論文を紹介した。
Chakrabarti and Fombonne(2001)ではアスペルガー障害の有病率は1万人に8.4人であり、0.0084%である。
DSM-IVのアスペルガー障害は診断の条件が厳しく、該当者がほとんどい。知的障害のない自閉スペクトラム症のほとんどは、特定不能の広汎性発達障害であるが、多くの精神科医は診断基準に詳しいわけではないので、アスペルガー障害という診断名が多く多く使われていた。その後、改訂されたDSM-5では、アスペルガー障害も多くの特定不能の広汎性発達障害は同じ自閉スペクトラム症に統合されたので、DSM-IV時代に多くの医師がアスペルガー障害の概念を正確に使わなかったことは今となっては問題ではなくなっているし、臨床ではアスペルガー障害でも特定不能の広汎性発達障害でも対応が変わることがないので重要性は高くない。
DSM-IVのアスペルガー障害の診断基準に照らし合わせて、アスペルガー障害でなかったという方が問題である。正確に診断をすると1万人に8人くらいしか出会えないのだから、アスペルガー障害の診断基準はほとんどの人には当てはまらない。岩波のようにアスペルガー障害の診断基準に満たないので、アスペルガー症候群ではない、広汎性発達障害ではないと議論が飛躍する方が大きな問題である。
豊川の事件で私たちが知ることができる情報は一部であり、常同性の情報が一般に流れていないという可能性もある。私たちが知らないからといって、存在しないということにはならないので、アスペルガー障害ではないと断言するのは拙速と言わざるを得ない。
また、クラスメートと仲良くしていたので、自閉症ではないと岩波は述べているが、実態から大きく乖離した考えである。自閉症の人は友人作りができないと診断基準だけ見ていると考えがちだが、友人がいる者、日常的にクラスメイトと話をする者がほとんどである。クラスメートと仲良くできたから自閉症ではないというのは、自閉症やアスペルガー症候群の人をほとんど見たことがないのだろう。