性犯罪の認知の歪み

性犯罪者の頭の中 (幻冬舎新書)

性犯罪者の頭の中 (幻冬舎新書)

性犯罪の加害者を追った本。

この本は2012年9月末に放送した「かんさい熱視線」『性犯罪〝犯行サイクル〟を断て』の放送内容に加筆・修正をしたものだそうだ。「かんさい熱視線」とはクローズアップ現代の関西版として作成されている番組である。性犯罪の再犯への取り組みまで紹介がされていて、バランスの良い本である。

認知の歪み

性犯罪の加害者には認知の歪みがあることは以前にもエントリをいれた。

autisticcrimes.hatenablog.com

以前に引用したのは以下の文章である。

痴漢をしていたのも、もともと女性とのコミュニケーションがあまり得意ではなく、女性と会話してお付き合いをするという流れをショートカットして触っていたんだと思います。だから性的な欲求というよりは、女性とのコミュニケーションのつもりでした。

この本でも同じようなことが書かれていた。

「女性は喜んでいる」と考える〝認知のゆがみ〟
 性犯罪者の多くは、女性に対して〝ゆがんだ考え〟を抱いている。その「考え」は、性犯罪者に特徴的な傾向で、普通の感覚では理解できない〝認知のゆがみ〟といわれている。
 性犯罪者に特有の〝認知のゆがみ〟はいくつかある。

・女性は自分が強姦されることを空想している……
常識的に考えてそんな女性はいない。しかし、性犯罪者の多くは「女性はそういう空想をしている」と勝手に思い込んで、犯行のイメージを膨らませているのだ
・女性は嫌がっているが、本当は喜んでいる……
犯行の最中に女性は嫌がり抵抗する。しかし、性犯罪者はその様子を違った目で見ているのだ。喜んでいると思い込んでいるために、そこで犯行をやめることはない

〝認知のゆがみ〟の認知とは、人間がいろいろな物事を見て判断したり解釈したりすることで、平易にいえば「考え方」に近い。つまり、性犯罪者の多くは、女性に対する考え方がゆがんでいるのである。本書でも、嫌がる女性を見ても「喜んでいると思った」と語る性犯罪者がすでに何人か登場している。

性犯罪者への統計調査がないため、どの程度の割合でこの認知の歪みが存在しているのかはわからないが、著者が「多く」と頻度を書いているのであれば、無視できない程度には多いのかもしれない。

自閉スペクトラム症との関連も少しだけ登場する。

元受刑者の社会復帰を手助けする保護司の一人に話を聞いたときだった。
「個人的な感想ですが、性犯罪者の中には、発達障害というのですか、そういう人が多い気がします。被害者が嫌がっていることに気づけなかったり、淡々と犯行のことを話したりするのが、彼らの特徴のように思います」

現場の人たちも違和感を持っているようである。

虚構と現実の混同

虚構と現実の区別がつかないというロジックで批判されてきたものがいくつかある。その代表はオタクであって、現実の世界に戻れ的なことも言われることがある。

実際のところ虚構と現実が混同されるのは自閉スペクトラム症である。アダルトビデオの内容は、虚構であって、実際のものとは異なる。強姦作品で、実は女性は喜んでいるという演出がされていても、それは虚構であり、演技であって、現実では異なるという認識が普通の認識である。

一方で、自閉症スペクトラム症の場合は、虚構と現実の区別がつかない場合があるため、アダルトビデオの強姦もの現実のことだと認識してしまうことがある。

さきほど引用箇所でも「女性は嫌がっているが、本当は喜んでいる」ということが書かれていたが、このような発想があるのはアダルトビデオや官能小説に限られるはずなので、アダルトメディアが犯行に影響を与えている影響は大きいのではないかと思われる。

R-18は適当か

性風俗やポルノが性犯罪を助長しているのか、ガス抜きになるために予防的に働いているのか、という論争が長らく続いている。

この対立は誤っているのではないだろうか。というのは、認知の歪みがない人にとって、ポルノで強姦作品は、あくまでも虚構であって、現実に起こるものだとはどうしても認識できないからである。この種の人たちにとって、強姦作品か現実の犯罪に影響を与えることは考えにくい。

しかし、虚構と現実の区別がつかない人たちには、強姦作品は「女性は嫌がっているが、本当は喜んでいる」と伝わってしまう。従って、認知の歪みが発生するか否かでレーティングを変えた方が理にはかなっている。

もちろん理論的な仮説に留まるが、現実と虚構の区別がつく人にとってはポルノが現実の行動に与える影響はない(趣味)でとどまるが、現実と虚構の区別がつかない人にとっては、ポルノは犯罪の助長につながる可能性があるため、閲覧を禁止した方がいいかもしれない。

暴論のように感じられるかもしれないが、理論的に破綻はしていなさそうである。

性犯罪の模倣

認知の歪みを計測することはなかなか難しい。

科学警察研究所の調査研究では、「アダルトビデオを見て自分も同じことをしてみたかった」と答えた性犯罪者は、強姦を犯した少年では50%にのぼり、成人でも37.9%を占めている。これはポルノの模倣についての質問であって、〝認知のゆがみ〟そのものを分析したものではない。だが、この中にはこうしたメディアに影響を受け、〝認知のゆがみ〟に支配された性犯罪者が少なからずいるのではないかと考えられる。
一方、この調査では、「アダルトビデオが好きか」という質問も行っている。強姦を犯した少年の43・5%、成人の36・1%が好きだと答えている。しかし、逆にいえば、半数以上の性犯罪者は、特段好きではないということを意味している。

性犯罪を行う人がアダルトビデオ好きかというとそうでもないようである。

自閉性かサイコパシーか

本書で最も登場する人物Aは「女性は嫌がっているが、本当は喜んでいる」と考えるタイプではなかったようである。

「逮捕された後、弁護士から、『被害者の女性は喜んでいると思っていたのではないか?』などと何度も聞かれました。でも、私にはそういう感覚は全くありませんでした。女性が嫌がっているか喜んでいるかとは全く関係ない次元で、犯行に及んでいたからです。それは繰り返しになりますが、自分の〝スキルアップ〟のための犯行でした」

少し話がそれるが、弁護士が何度も「被害者の女性は喜んでいると思っていたのではないか」と問い詰めるというのは、性犯罪事件ではこのパターンが多いということなのだろう。

結果として、A氏はこのタイプではなかったようで、引用箇所に書かれているように捕まらないことを目的として用意周到に犯罪を続けていくことで自身がスキルアップをしているRPGゲームのようだったと供述している。

アダルトビデオの影響はなかったということなのだろうが、被害者がどのような思いをするかという想像が欠落しているのは病理的である。この場合、自閉性(Autistic)かサイコパシー(Psychopathy)のいずれかの症候に分類できる。