その後も、崎濱さんは刑事事件でたびたび鑑定人を務め、「発達障害と犯罪」の関係について問題提起してきた。一方で、発達障害が事件報道で取り上げられ、課題も浮上した。「犯罪を起こしやすいと誤解されている」と険しい表情をする。
「そこが違う」。崎濱さんは、多くの鑑定経験から「思考の筋道が独特なことがあり、結果として事件が奇妙や残酷に見えることがあるから、耳目を引くだけ」とし、「決して発達障害があるから事件を起こすわけではない」と強調する。
2004年の学会発表では実際にアスペルガー症候群の犯罪が多いという趣旨の発表をされているので、このあたりの考えを深く知りたい。
「『悪質な殺人犯』というレッテルを何とかしたい」。崎濱さんは、旧知のジャーナリストに、鑑定書や調書を見せ、事件の真相を伝えた。
その後、ジャーナリストは、調書をほぼ引用した書籍「僕はパパを殺すことに決めた」を出版した。しかし、発達障害の影響はわずかに触れられただけだった。崎濱さんが、書籍化を知ったのは出版前日。「まさか、こんな本に…」。内容に絶句した。
旧知のジャーナリストとは草薙厚子さんのことだが、その後どうしているのか全くフォローしていなかった。こんな本を書いたようだ。
2015年3月19日、「顕微授精に代表される生殖補助医療(ART)による妊娠で生まれた子は、そうでない子に比べ、自閉症スペクトラムになるリスクが2倍になる」という衝撃的なニュースが世界を駆け巡った(『American Journal of Public Health』)。
ここで引用されている論文は以下のものだろう。
本研究では、ART(人工授精)によって生まれた子どもたちの間で、自閉症と診断される割合が高いことを示し、その関連性には、多胎妊娠や妊娠・出産時の合併症が媒介的な役割を果たしている可能性があることを明らかにしました。自閉症の発症率の上昇は、交絡因子の調整後も、単胎児を除くほとんどのサブグループで持続した。多胎妊娠を含む出生前および周産期の合併症を調整すると、ARTと自閉症との関連は、若い母親では減少し、高齢の母親では消失した。正確なメカニズムは不明であるが、これらの結果は、ARTの結果として生まれた子供が自閉症の発生率が高くなる可能性を示唆している。これは、ARTと妊娠・出産の有害な結果、特に多胎妊娠との関連によるものである。さらなる研究が必要であるが、この結果は、適切な場合には、単一胚移植(13)(51)により、ARTで生まれた乳児の自閉症のリスクを低減できる可能性を示唆している。
- 13.Centers for Disease Control and Prevention. Assisted reproductive technology surveillance—United States, 2009. MMWR Surveill. 2012;61(7):1–23.
- 51.Practice Committee of Society for Assisted Reproductive Technology; Practice Committee of American Society for Reproductive Medicine. Elective single-embryo transfer. Fertil Steril. 2012;97(4):835–842.
人工授精で自閉症の発生率が高まるのはよく知られたことであって、個人的にはあたりまえのことと認識しているが、たしかに一般的にはニュースバリューがあるかもしれない。ちなみに、引用元の論文の論旨は明快で、単一胚移植でやればリスク軽減ができるという話なので、2021年1月の保険適用の変更である程度、緩和されたようには思う。