パッション8/10
『イーハトーボ小学校の春』
−解説・注釈−
井出先生の「イーハトポー小学校の春』は、教育実践のエッセンスにあふれる本ですが、同時にそこには、たくさんの人との出会いや詩、和歌、俳句、文学作品あるいは楽譜、絵、更には植物、動物、鉱物、化石などの名前までか、数えきれないくらい随所にちりばめられていて、読む人のイメージを拡げる手かかりとなつています。その中から、ほんの少しですか、ご紹介しましよう。
イーハトーボ:なせイーハトーボなのか…

「イーハトーボ小学校の春」の冒頭、井出先生が磐手小学校に赴任していく経緯をのべられ、新職場となった学校を名付けたことがわかります。
かねてから宮沢賢治の作品を読み、特に教師としての賢治に共感されての事だと考えられます。
では、賢治にとってイーハトーボとは何だったのでしょう。賢治は、初の童話集『注文の多い料理店』の出版にあたり、自筆の広告文を作りました。
それは《イーハトヴは一つの地名である》の起句ではじまる有名な文章で、ここから「岩手」をエスペラント風に呼んだものとか、理想郷(ユートピア)のことだと短緒的な解釈が生まれています。しかし、賢治研究家の天沢退二郎氏は、前記広告の全文をよく読みかえし、文の内実にたちも
どって解釈を深めることが大切と指摘しています。(『宮沢賢治ハンドブック』1996年・新書館)
つまり「イーハトーポ」ってなに?という疑問に対する答えは簡単でなく、作品群を読むほかありません。幸いにも若干の研究書がありますので参考までに掲げておきます。
(1)「イーハトヴを探して」赤坂憲雄・吉田文憲編著   『「注文の多い料理店」考』五柳書房・1995年所収。
(2)「過ぎ越しの賢治」(中沢新一)中沢新一著『哲学の東北』幻冬舎 文摩・1998年所収。


ちなみに、<イーハトーボ>の表記法は、 賢治自身も「イーハトヴ→イーハトブ→イーハトーポ→イーハトーブ→イーハトーヴォ」とさまざまに変化しています。


チャボ・まむしよけのブーツ
リアルな色づかいと温かなタッチで見事に描かれた二羽のチャボが表紙カバーを飾っています。
また裏表絶には、中央に小さく枠で囲ったスケッチがありますが、描線が細くて形がよくわかりません。これは本文131頁にあるスケッチ「先生の
作ったまむしよけのブーツ」を縮小したもの。本文扉頁のカットも同じです。
この二つの絵は今春、川久保分校を卒業した真由さんの作品です。はかにも本文中に8点の絵やイラストが収められていて、いずれも井出先生の教え子たちの傑作、見ごたえがありますね。
桑の木の皮ですいた和紙の卒業証書
「一本の桑の木のはなし」は28年にわたる井出先生の教育実践を、先生のそばにあって、だまって支えてきた桑の木への様々な想い出にあふれていて、気持ちがなごみます。

ある日、先生は私を見上げて言いました。「子どもたちが卒業するんだ。枝を少しもらうよ。」
先生は枝を蒸して外がわの皮をとって、内皮というところから子どもたちと和紙をすいたのです。・・・わたしの枝から作った和紙の卒業証書をもらって、子どもたちは卒業していきました。

手作りの卒業証書の文には宮沢賢治が作った「精神歌」の詩の一部分が採られています。