パッション6/10
学校は子どもたちと先生が共に育つところ

この春、分校の卒業生は真由ちゃんただひとりだ。入学する新一年生はいない。卒業式には谷川俊太郎の「生きる」という詩を全員で朗読するそうだ。学校行事のセレモニーも最大の知恵をしばって、心に響く企画を考える。井出先生が分校に赴任した春に入学してきた真由ちゃんは、井出先生のふところでたっぷりと6年間を過ごしたことになる。何と幸せな生徒だろう!年々、都心への村離れが進み、現在わずか36世帯の村。生徒数がゼロになれば必然的に分校は閉じられる。
重々しい校門、ヒンヤリした廊下、教室では、類を上げれば闇夜のような黒板、輪切り教育、切なくなる様な「いじめ」の問題・・・キレる、ムカつく、・・・と、ストレスをつのらせている子どもたちを前にして、うろたえる大人たち。
教育の現場も荒廃していると言われて久しいが、フィクションではなく「可能性」というキーワードを掲げた宮沢賢治の世界を地で行くこんな学校が、先生が、本当に実在していることをこの目で見て、晴れやかな思いがした。
井出先生は語る。「子どもは育てるものではなく育つもの。楽しさを創り出す所が教室であり、楽しさを子どもと共に分かち合うリーダーが先生。未来をひらく力が子どもたちの中に育つのが私の願いなんです」と−−。 (’98.1.29設楽)