西田良子氏

(元大谷大学教授・児童文学研究家・宮澤賢治研究家)

 児童数十四名という山峡の小さな分校で、井出さんは子どもたちに、学ぶことのたのしさや自然の恵みを享受するよろこびを体験させながら、個性を生かす教育を実践された。子どもと一緒に炭焼きをしたり、畑を耕したり、天井いっぱいに星座を描いたり、子どもの作った詩に曲をつけてみんなで歌ったり、実に独創的な手作りの教育をいえる。「教師宮澤賢治」に魅せられたという井出さんは、賢治と同じ願いをこころに燃やしながら、子どもと共に生きるすばらしい教師である。賢治が花巻農学校の生徒のために作った『精神歌』の中に「ワレラハ黒キつちに俯シ、マコトノクサノタネマケリ」という歌詞があるが、井出さんは子どもたちのこころに「賢治精神」の種を蒔き続ける「種蒔く人」だと思う。