プロフィール

この度、２００８年６月２４日にジャーナリストが私の授業を一年間取材した本、『スクール・アーティスト』井出良一先生たった一人の教育改革・梶山寿子著（文藝春秋刊）が出版されました。

子育て中の保護者の方、若い先生の授業のヒント、授業の本質、公立学校でも、こんな楽しい授業ができるということが、一年間の取材によって、くわしく書かれています。

紀伊国屋書店、ジュンク堂、大垣書店などの本屋に平積みされておりますので、ぜひ、お買い求めいただければありがたいです。

私の一年間の授業をジャーナリストの目から、捉え、細かな所から大きなテーマまで詳細に書き記したものです。子どもたちがなぜ、学校が楽しく、わくわくして勉強に望めるのか、無理矢理に集中させた授業ではなく、子どもの本心から授業の中へのめり込み、知的好奇心に充ち、さまざまなジャンルの授業に興味関心を持ちながら勉強していけるのか、反復練習の必要な読み書き計算の分野までも、楽しく、わきあいあいと、さらにものすごい集中力と挑戦心を持っていどむのかが書いてあるのです。

表紙や中表紙の写真は、まさに、その授業の子どもたちの姿を写しているといえます。まず、「はじめに」の章で、著者は、私の漢字の授業からこの本を書き出します。

運動場に寝ころんで、「空」という漢字を描くところから、くわしく授業を風景を追っていきます。空に銀色に光る飛行機があらわれ、雲の授業へと変化していきます。一度でも、運動場に寝ころんで空を見たことがありますか？まったく違った世界が現れます。空だって、今まで見ていた空とは、まったくちがったものが現れるのです。他のものいっさいが目に入らない。山村暮鳥の詩の言葉を借りるなら「いちめんのそら」なのです。

この授業の発想は、どこからきたのだろうと考えてみると、ずいぶん昔、私の少年時代の原風景にあります。練兵場が、いちめんのクローバーにおおわれ、白い花、シロツメグサがゆれて、私の遊び場のトーチカとブランコが太陽に輝き、巨大なセメントのアーチが遠方にある。そのクローバーの中に寝ころんで空を見た。その美しかったことは、一生忘れない。子どもたちにとって、そういう原風景を無意識の中に降り積もらせてやることが、私の授業の方法なのです。

これも、計画された授業ではなく、体育の授業の後に「空」の授業、そして、運動場からの帰り道に幼稚園のそばに咲いていた萩の花を教室に私が持ち込んだこともくわしく書かれています。授業はあらゆるジャンルの勉強へと変化していくのです。

それも子どもたちにとって、知的好奇心、興味関心のあるものを必ず、教材として提示していくわけです。

自由な教室と集中する子どもたちの秩序、教員として生きるための自分に課した「イーハトーボ小学校の教員の家訓４０箇条」の一部も紹介されます。

「新しい時代の教育のために」という章では、読み書き計算だけではなく、「考える力」を育てる授業方法が書かれています。

今回の出版のために、著者の梶山さんから、かつて、授業への願いを込めてかいた「未来を拓く」（「イーハトーボ小学校の春」「イーハトーボ小学校の総合学習」一ツ橋書房刊）を２００８年度用に書き直せないかと言われ、２ヶ月かかって現在の私の授業への願いを書いた「未来を拓く　二〇〇八）が載っています。

「ある親との対話」です。ハンディを持った子どもを何度も受け持ってきましたが、学校で何があったのかをお家で報告できないなら、メールという現在のツールを利用して、お知らせしようと始めたものが、なんと１日も欠かさずの報告になったことには、私も驚きました。

　学校であった楽しかったこと、うまくいかなかったことをすべて報告していったわけです。その一部の掲載を許可ねがったので、この本に載せることができました。翔太くん（仮名君の成長、まさに奇跡とも言える成長もすばらしかったのですが）彼を取り巻く子どもたちの話が私の教室をわかってもらえると思ったので、載せていただくことになりました。

　学校で起こった不都合なことは、普通、親には話さないのが通例ですが、私は、すべてを連絡しました。だから、途中で、考え方などが対立することもありました。お怒りを受けることもありました。しかし、それを乗り越えてこそ親との対話が成り立つのだというのが、私の信念です。

最終章「おわりに」で、現在の日本が置かれている状況とビジネス界の求める人材などについて言及しています。今の日本に必要な人材をどのように育てるか、これは、会社の研修だけでは、もう間に合わないのだと思われます。だからこそ、井出良一の教育の方法が、見直されていいのだと著者は語っています。それは、私が子どもたちに願う「生きる力」と重なり合うのです。

ぜひ、ご一読いただきたく思います。ちょっとおおげさに言うならば、「日本の教育、学校、先生、子育て中の保護者のみなさんに今、一番、必要なことが書かれている」と思うのです。