研究の目的

ネット・ゲーム障害・依存もしくはその傾向にある者の社会学的・精神医学的背景を探る。

いきさつ

香川県でネット・ゲーム条例が制定される見込みになった時に、児ポ法や東京都都条例で表現の自由についての社会運動をしてきたコンテンツ文化研究会から講演を依頼をもらう。

その後、素案が出てきたところ、高校生までのスマホ・ゲームの使用時間を平日は60分、休日は90分に親が制限する責務を負うという条文があることが判明し、ニュースになる。

県条例素案にゲーム利用時間制限(NHK, 2020/1/09)
https://www3.nhk.or.jp/lnews/takamatsu/20200109/8030005560.html

調査に関する問題

既存データの分析

データ

内閣府, 若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査),2010
https://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/Direct/gaiyo.php?eid=0756

SSJDAで調べたところネット依存、ゲーム依存関連のデータはなかった。

ひきこもり関係

「パソコンや携帯電話がないと一時も落ち着かない」との関連。

項目 P値 オッズ比
ひきこもり 0.166 1.87
ひきこもりではない不登校(小中) 0.000 *** 2.61

* P < 0.05; ** P < 0.01; *** P < 0.001

ひきこもりは関連がなく、ひきこもりではない不登校が関連していることがわかる。

小中学校時代の体験

「パソコンや携帯電話がないと一時も落ち着かない」との関連。
太字が関連あり。

項目 P値 オッズ比
不登校を経験した 0.000 *** 2.58
友達をいじめた 0.118 1.31
友達にいじめられた 0.000 *** 1.62
学校の勉強についていけなかった 0.000 *** 2.37
親はしつけが厳しかった 0.007 ** 1.43
小さい頃から習い事に参加していた 0.034 * 0.77
親が過保護であった 0.000 *** 2.54
両親の関係がよくなかった 0.044 * 1.46
両親が離婚した 0.206 1.34
親から虐待を受けた 0.017 * 3.07
経済的に苦しい生活を送った 0.199 1.34

不安要素との関連

すべての項目が有意である。

質問番号 項目 P値 オッズ比
q28_1 家族に申しわけないと思うこと多い 0.000 *** 2.47
q28_2 生きるのが苦しいと感じることある 0.000 *** 2.83
q28_3 死んでしまいたいと思うことがある 0.000 *** 3.11
q28_4 絶望的な気分になることがよくある 0.000 *** 3.56
q28_5 人に会うのが怖いと感じる 0.000 *** 3.15
q28_6 知り合いに会うことを考えると不安になる 0.000 *** 2.42
q28_7 他人が自分をどのように思っているのかとても不安になる 0.000 *** 2.90
q28_8 集団の中に溶け込めない 0.000 *** 2.04
q28_9 つまらないことを繰り返し確かめてしまう 0.000 *** 2.63
q28_10 同じ行動を何度も繰り返してしまう 0.000 *** 4.91
q28_11 食事や入浴の時間がいつもと少しでも異なると我慢できない 0.000 *** 4.11
q28_12 自分の身体が清潔かどうか常に気になる 0.000 *** 4.18
q28_13 家族を殴ったり蹴ったりしてしまうことがある 0.000 *** 5.06
q28_14 壁や窓を蹴ったり叩いたりしてしまうことがある 0.000 *** 3.09
q28_15 食器などを投げて壊すことがある 0.001 *** 3.39
q28_16 大声を上げて怒鳴り散らすことがある 0.000 *** 2.44
q28_17 リストカットなどの自傷行為をしてしまうことがある 0.000 *** 15.62
q28_18 アルコールを飲まずにいられないことがある 0.000 *** 2.72
q28_19 何らかの薬を飲まずにはいられないことがある 0.000 *** 6.91
希死念慮

q28_1-q28_4は希死念慮の症状である。オッズ比は一般群に比べて2.5-4倍程度である。
希死念慮が伴う主な精神障害はうつ病、境界性パーソナリティー障害、不安障害群である。

社交不安症

q28_5-q28_8は社交不安症の症状である。オッズ比は一般群に比べて2-3倍程度である。
該当する精神障害は社交不安症(社交不安障害)である。

強迫症

q28_9-q28_12は強迫症の症状である。オッズ比は一般群に比べて2.5-5倍程度と他の群より多い。
該当する精神障害は強迫症(強迫性障害)である。

暴力行為・素行障害

q28_16-q28_16は暴力行為である。オッズ比は一般群に比べて3-3.5程度である。
該当する精神障害は素行障害である。

自傷行為

q28_17は自傷行為である。オッズ比最も高く15.62である。
一般的には該当する精神障害は境界性パーソナリティー障害とされている。ただ、自傷行為は自閉スペクトラム症に伴うこともある。
境界性パーソナリティー障害に併存する精神障害として、摂食障害、うつ病、不安障害群、身体症状障害、疼痛性障害(筋繊維痛症など)である。
自閉症の場合、女性の場合は境界性パーソナリティー障害の併存症と大差はないが、男性では摂食障害は少ない。またADHDの併存率が高まる傾向にある。

習慣的アルコール使用

q28_18はアルコール使用を連想させる質問である。やけ酒レベルでも該当する質問であるため、この回答がアルコール依存になるわけではないが、アルコール依存率は高そうである。

オーバードーズ

q28_19は処方薬依存、もしくは処方薬をまとめて飲むオーバードーズと言われ自傷行為の一つだと思われる。自傷行為よりも発生頻度が低いとれている。そのため、自傷行為よりもオッズ比は低いが、6.91と他より高いのは自傷行為が高いのと同じ傾向である

先行研究

リスク

うつと不安症はゲーム中毒のリスク

Brunborg GS, Mentzoni RA, Frøyland LR. Is video gaming, or video game addiction, associated with depression, academic achievement, heavy episodic drinking, or conduct problems? J. Behav. Addict. 2014; 3: 27–32.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25215212

Scharkow M, Festl R, Quandt T. Longitudinal patterns of problematic computer game use among adolescents and adults: A 2‐year panel study. Addiction 2014; 109: 1910–1917.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24938480

男性が多く、ADHD、抑うつ、社交不安が関係

Lee SY, Lee HK, Choo H. Typology of Internet gaming disorder and its clinical implications. Psychiatry Clin Neurosci. 2017 Jul;71(7):479-491. doi: 10.1111/pcn.12457. Epub 2016 Oct 30.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27649380

男性が女性の2.3倍であり、ADHD、抑うつ、社交不安が関係(注:三原さんたちのレビューにこの論文は含まれていない)

問題行動

衝動性・素行の問題

Gentile D. Pathological video‐game use among youth ages 8 to 18: A national study. Psychol. Sci. 2009; 20: 594–602.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19476590

Scharkow M, Festl R, Quandt T. Longitudinal patterns of problematic computer game use among adolescents and adults: A 2‐year panel study. Addiction 2014; 109: 1910–1917.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24938480

衝動性・素行の問題はゲーム中毒のリスクである。衝動性・素行の問題はADHDの症状である。

保護因子

社会的能力と自尊心が高いこと

Lemmens JS, Valkenburg PM, Peter J. Psychosocial causes and consequences of pathological gaming. Comput. Hum. Behav. 2011; 27: 144–152. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3003785/

学校関連でのウェルビーイング、クラスへの社会的統合

Rehbein F, Baier D. Family‐, media‐, and school‐related risk factors of video game addiction. J. Media Psychol. 2013; 25: 118–128.
Family-, Media-, and School-Related Risk Factors of Video Game Addiction: A 5-Year Longitudinal Study

教員の自律(autonomy)支援

Yu C, Li X, Zhang W. Predicting adolescent problematic online game use from teacher autonomy support, basic psychological needs satisfaction, and school engagement: A 2‐year longitudinal study. Cyberpsychol. Behav. Soc. Netw. 2015; 18: 228–233.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25803769

影響

影響がない

コンピューターゲーム使用者対象。ドイツでコンピューターゲームの使用の影響について調べた研究。開始時点から2年後の心理社会的幸福に対する体系的な悪影響は見られなかった。ただし、問題のあるゲーマーには状態が不安定になっていた。
Scharkow M, Festl R, Quandt T. Longitudinal patterns of problematic computer game use among adolescents and adults: A 2‐year panel study. Addiction 2014; 109: 1910–1917.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24938480

暴力性の増加

ゲーム中毒者対象。ゲームに費やす時間が物理的な攻撃性のレベルを増加させる。コンテンツが暴力的であるかどうかは関係がない。
Lemmens JS, Valkenburg PM, Peter J. The effects of pathological gaming on aggressive behavior. J. Youth Adolescence 2011; 40: 38–47.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20549320

うつ病、不安、社交不安の増加

ゲーム中毒者対象。2年後の計測でうつ病、不安、および社交不安が増加する。 Gentile D. Pathological video‐game use among youth ages 8 to 18: A national study. Psychol. Sci. 2009; 20: 594–602.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19476590

うつ病、学業成績の低下、素行の問題の増加

ゲーム中毒者対象。ノルウェーの思春期の研究。ビデオゲーム中毒がうつ病、学業成績の低下、素行の問題に関係する。ゲームプレイ時間は関係ない。 Brunborg GS, Mentzoni RA, Frøyland LR. Is video gaming, or video game addiction, associated with depression, academic achievement, heavy episodic drinking, or conduct problems? J. Behav. Addict. 2014; 3: 27–32. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25215212

大学の成績、ドラック仕様、アルコール乱用の増加

ゲーム中毒者対象。アメリカの研究。ビデオゲーム中毒は、大学の平均評点への負の影響、薬物の使用、アルコールの乱用と関連がある。1年後計測。 Schmitt ZL, Livingston MG. Video game addiction and college performance among males: Results from a 1 year longitudinal study. Cyberpsychol. Behav. Soc. Netw. 2015; 18: 25–29.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14224960

考察

一般人口ではゲーム使用は問題がないが、ゲーム中毒群ではゲームを続けることは様々な影響を生じさせるようだ。うつ、不安、ADHDがリスク要因として挙がっているのであれば、基本的にはそれらが悪化したと捉えるのが妥当である。つまり、ゲームのやり過ぎかそれらの精神疾患を悪化させる促進要因になったかが争点だろう。そもそも健康度が高かったものがゲームによって健康度が下がったというのはかなり稀であることは、Scharkow et al.(2011)で既に明らかである。

scharkow2014.png

最初Unproblematicで最後にProblematicになっているのがゲームをやり続けて状態が悪化したグループである。2行目と3行目なので合わせても1.6%程度である。注意したいのはゲームが原因ではなく、他の原因はありつつ、ゲームをやり続けていることも十分想定されることだ。また、これらの人たちには生物学的脆弱性(さきほどのリスクとしての精神疾患等)も想定できるため、実際にゲームが生活を悪化させること心配することは考えなくても良いのではないかと思える。

併存症からはうつ病、不安症、ADHDのリスクが指摘されることから、これらの治療をすることがゲーム障害の予防・治療になることが示唆される。

保護因子は社会参加の度合いを強めたり、ゲーム以外に生きがいを見つけることなどが示唆される。思春期であれば学校を接点とした取り組みというこになるだろうが、学校が何かをするというのではなく、対象の学生へ社会へ留めるアプローチをする必要があるのだろう。なお、レビューには含まれないが、このタイプの学生は不登校になりやすいことがわかっている。不登校になり家にずっいるのでゲームをずっとしているというパターンである。

結局のところ、疾患があれば治療、社会的に孤立すれば包摂という基本的なアプローチをすることに尽きるようだ。

調査と尺度の候補

ネット・ゲーム障害

ゲーム障害の自記式質問紙はJS Lemmens(アムステルダム大学)によって作成された、Internet Gaming Disorder Scaleを鷲見ら(2018)が日本語に翻訳したIGDS-Jが存在し、利用可能である。

IGDSはDSM-5のインターネットゲーム障害の自記式質問紙として作成されているが「ゲーム」としか書かれておらずICD-11のゲーム障害の診断基準採用をみ越してゲーム障害の尺度として作成されたと考えられる。

ゲームのところを、1)メッセージサービス( LINE、チャット、メールなど)、2)SNS(Twitter, Facebook, Instagramなど)、3)ゲームにしたmodified-IDGSを過去に作成している。

社会学的項目

収入、世帯収入、学歴、職業
子どものころの体験、家庭について

抑うつ

PHQ-9。

不安症

GAD-7

ADHD

ASRS-J

境界性パーソナリティー障害

DSM-5 人格質問票

社会職業的機能

sSOFAS

症状

暴力・強迫