不登校の学生時代の体験に

基づいた類型化

井出 草平
関西計量社会学研究会
2018/01/20

問題

不登校の典型像は時代共に変化する

1990年代 不登校運動
2000年代  ひきこもり問題
現在  いじめ、子どもの貧困

その時話題になったトピックとひきこもりは関連付けて語られる。

実際、どの程度の不登校がそれぞれの現象との関連があるのか?

不登校の類型

  • 精神医学では治療を主眼に置いた不登校の類型がある(高橋 1987)
  • 医学系ではない不登校の類型は保坂(2000)
  1. 神経症型              
  2. 脱落型
  • 学校恐怖症(Johnson et al. 1941)の提唱。
  • 元々、精神疾患と密接な社会問題化がされる。
  • その社会問題化に対して家庭環境の劣悪さが関係しているという構築。

脱落型不登校

脱落型不登校とは、家庭の劣悪な社会経済的要因(低収入など)に起因して怠学傾向や非行傾向の見られる不登校(保坂 2000)

  • およそ2/3を「脱落型不登校」(保坂 2013)   
    ...特定地域の小学校の調査
  • 貧困の不登校が多い(笹倉 2017)
    ...統計学的に有意に多い≠脱落型の不登校が多い

仮説1:脱落型が不登校の大半である

余談

脱落型不登校を扱う論文でスクール・ソーシャル・ワーカーの必要性が説く傾向。

  • メンタルの問題=カウンセラー     
  • 貧困などの問題=ソーシャル・ワーカー   

現在はスクール・カウンセラー(臨床心理士等)が配置されており臨床心理学の領地。貧困と不登校を結びつけることによって、社会福祉士の就職先ができる?

神経症のネーミングは妥当なのか

  1. 精神医学では「神経症」は1980年の診断基準改定から使われていない(DSM-III-R)
  2. 脱落型に相当する不登校の方が精神障害の診断率は高い(Egger et al. 2003)

一般対照群に対しての精神疾患罹患
不安型不登校(Pure Anxious School Refusal)3.0倍
社交不安障害11.0倍、全般性不安障害2.9倍、特定の恐怖症11.0倍、社会恐怖6.6倍、うつ病10倍
怠学型不登校(Pure Truancy)3.6倍
うつ病3.9倍 、反抗挑戦性障害が3.8倍、素行障害8.4倍  

仮説2:脱落型の方が精神疾患が少ない

不登校とひきこもり

不登校の5年後に就業・就学をしていない者は18.1%(文部科学省 2014)

公立中学3年生(2006年時)に「学校嫌い」で年間30日以上欠席した者の5年後の追跡調査。
中学卒業後の5年間に「何もしていない」生活を送ってきた者が8.3%
「現在の状態」として「就労・就学ともにしていない」という者18.1 %
現代教育研究会 (2001)も同様の結果を示している。

不登校の2割程度がひきこもりに近い状態になっている。

不登校とひきこもり

不登校とひきこもりの規定要因は異なる(井出 2014)

  • 不登校と関連があるもの...経済的貧困、両親離婚、いじめ被害、成績不振
  • ひきこもりと関連があるもの...非社交性

仮説3a:不登校は性質の異なった群からなる。

仮説3b:ひきこもりに発展する不登校は一部。

不登校の類型化

  • 保坂(2000)の類型は、心の問題から貧困の問題への既存言説に対するオルタナティブ言説として記述されている。
  • 不登校と変数の関連をみる研究はだけでは不十分。
  • どのようなタイプがどの程度いるのかを明らかにする必要がある。
  • 小・中学校での体験で分類を試みる。

仮説まとめ

仮説1:脱落型が不登校の大半である
仮説2:脱落型の方が精神疾患が少ない
仮説3a:不登校は性質の異なった群からなる
仮説3b:ひきこもりに発展する不登校は一部

調査概要

  • 内閣府「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」(内閣府2010)
  • 平成22 年2月18 日~2月28日
  • 全国の15~39歳 5000人(回収率65.7%)
  • 層化二段無作為抽出法(全国200市町村から200地点を抽出)
  • 訪問留置・訪問回収
  • 本人回答
  • 現在SSJデータアーカイブに寄託されている

小・中学校での体験

問11と問12では小・中学校での体験を聞いている。マルチアンサー形式で、はい/いいえの2値で回答。

質問 質問文
Q11_1 友達とよく話した
Q11_2 親友がいた
Q11_5 友達をいじめた
Q11_6 友達にいじめられた
Q11_9 学校の勉強についていけなかった
Q12_13 両親が離婚した
Q12_18 経済的に苦しい生活を送った

潜在クラス分析

潜在クラス分析
潜在変数
連続 カテゴリカル
観測変数 連続 因子分析 潜在プロフィール分析
カテゴリカル 項目反応理論 潜在クラス分析

分析ソフトウェア

潜在クラス分析が可能なソフトウェア一覧。今回はMplusを使用。

Software 分類 BLRT 共変量 抹消結果 料金
Mplus 有料
SAS 有料
Latant Gold 有料
Stata 有料
LEM × × 無料
R(poLCA) × × × 無料

すべてを試していないので、情報は不完全。

潜在クラス分析のコード

VARIABLE:   NAMES = q11_1 q11_2 q11_5 q11_6 q11_9
                    q12_10 q12_13 q12_18;
            CATEGORICAL = q11_1 q11_2 q11_5 q11_6 q11_9
                          q12_10 q12_13 q12_18;
            CLASSES = c(4);
ANALYSIS:   TYPE = MIXTURE;
            ESTIMATOR = MLR;
            STARTS = 200 10;
            STITERATION = 50;
OUTPUT:     TECH14; !BLRTの出力
  • "CLASSES"でクラス数を指定する。
  • OUTPUTにTECH14を指定するとBLRTが使用できる。
  • BLRT(Bootstrap Likelihood Ratio Test)とは、適切なクラス数を判断する統計指標。

モデルの比較

2class 3class 4class 5class
\(ΔG^2\) 84.34 46.296 30.838 16.411
\(Δd.f.\) 8 8 8 8
BLRT \(p\) 0.000 0.000 0.000 0.333
BIC 2392.105 2391.306 2405.963 2435.048
Entropy 0.821 0.832 0.906 0.774
  • BICは3class
  • BLRTとEntropyは4class。4クラスを採用。      

クラス構成割合と応答確率

クラス構成割合

class1 class2 class3 class4
クラス構成割合 0.081 0.166 0.193 0.559

指標(顕在変数)の条件付き応答確率

class1 class2 class3 class4
脱落型 いじめ型 非社交型 普通型
q11_1 0.853 1.000 0.000 0.859 友達とよく話した
q11_2 0.768 0.874 0.000 0.687 親友がいた
q11_5 0.562 1.000 0.099 0.000 友達をいじめた
q11_6 0.769 0.769 0.504 0.323 友達にいじめられた
q11_9 0.301 0.535 0.383 0.288 学校の勉強についていけなかった
q12_13 0.712 0.108 0.222 0.139 両親が離婚した
q12_18 1.000 0.042 0.141 0.081 経済的に苦しい生活を送った

仮説1 まとめ

仮説1:脱落型不登校が大半である 

結果

  • 脱落型は8.1%。
  • 先行研究の指摘に反して少数。
  • 成績不振はどのタイプにもみられ、脱落型の特徴ではない。
  • ただし、不登校→成績不振という因果もあるので断言はできない。

考察

  • 保坂(2013)は貧困地域?
  • 脱落型は貧困地域で多く、地域によって不登校のタイプが異なるのではないか。

不登校とひきこもり

仮説3 ひきこもりと関連がある不登校はどのようなものか?

  • クラスの分類は小中学校時代の体験(過去)。
  • ひきこもりは現在のこと。
  • 4つにクラス分かれたクラスを独立変数にしてひきこもりを従属変数にする分析を行う。

潜在クラス分析の拡張

カテゴリカル変数の分析法のまとめ

観察された独立変数 潜在する独立変数
観察された従属変数 ロジスティック回帰分析 共変量を伴った潜在クラス分析
潜在する独立変数 抹消結果を伴った潜在クラス分析 カテゴリカルSEM

共変量を伴った潜在クラス分析

Latent Class Analysis with Covariate
潜在クラス分析

抹消結果を伴った潜在クラス分析

Latent Class Analysis with Distal Outcomes
潜在クラス分析

分析モデル

graphname Q11_1 社交性 Q11_2 親友 Q11_5 いじめ加害 Q11_6 いじめ被害 Q11_9 成績不振 Q12_13 両親離婚 Q12_18 経済的貧困 hiki ひきこもり c c c->Q11_1 c->Q11_2 c->Q11_5 c->Q11_6 c->Q11_9 c->Q12_13 c->Q12_18 c->hiki

分析法の議論

潜在変数を独立変数にした分析は困難
分析法は発展途上。現在の最良の方法は下記の3つ。

抹消結果が連続変数の場合

  • BCH...Bolck, Croon & Hagenaars (2004)      
  • DU3STEP...Vermunt (2010)

抹消結果がカテゴリカル変数の場合

  • DCAT...Lanza et al. (2013)            

統計パッケージ

  • Mplus...BCHはVer.7.3、DACTはVer.7.1以上
  • SAS+ PROC LCA Macro + LCA Distal Macro   

コード

Mplusのコードは下記のように書く。抹消結果のひきこもりは2値変数なので、DCATを使用する。 "Auxiliary= variable(DCAT);"と書く。連続変数の場合はDCATのところをBCHにする。

VARIABLE:   NAMES = hiki q11_1 q11_2 q11_5 q11_6 q11_9
                    q12_13 q12_18;
            CATEGORICAL = q11_1 q11_2 q11_5 q11_6 q11_9
                          q12_13 q12_18;
            CLASSES = c(4);
            Auxiliary = hiki(DCAT); ! categorical distal outcome
ANALYSIS:   TYPE = MIXTURE;
            ESTIMATOR = MLR;
            STARTS = 200 10;
            STITERATION = 50;

結果

クラス3(非社交型)がオッズ比が4.20と高く、95パーセント信頼区間をから有意に関連があることがわかる。

Class Odds Ratio S.E. 2.5%CI 97.5%CI
class1 0.346 0.046 0.020 6.023
class2 1.164 0.634 0.400 3.387
class3 4.198 0.072 1.730 10.188
class4 1.000 0.023 1.000 1.000

クラス間比較

クラス3(非社交型)は他のクラスとの比較をしてもひきこもりとの関連は有意であった。

Chi-Square P-Value
Overall test 9.483 0.024
Class 1 vs. 2 1.146 0.284
Class 1 vs. 3 9.303 0.002
Class 1 vs. 4 1.208 0.272
Class 2 vs. 3 5.214 0.022
Class 2 vs. 4 0.072 0.788
Class 3 vs. 4 7.229 0.007

不登校と精神疾患

仮説2:脱落型の方が精神疾患が少ない

  • 過去の精神状態の計測はできない。  
  • 現在の精神症候で代用する。

検証仮説:
不登校のクラスによって現在の精神症状に差がある。脱落型に精神症状がある者が少ない。

クラスと精神症状の関連

問29 現在の精神症状の項目。該当するものに〇をつける。2値データ。

  1. 不登校群と一般群のオッズ比
  2. クラス間の比較(抹消結果を伴った潜在クラス分析)

結果は別紙。

結果

  • 一般群と比較すると不登校経験群に精神症状は多い。
  • クラス比較では有意になるが、各クラスと抹消結果が5%水準では有意にならない。
  • おそらくnが少ないため。最小クラスは44。
  • クラス2学校挫折型が精神症状が少なく、不登校が環境起因であることを示唆。
  • 不安症状はクラス3(非社交型)、他害行為・依存はクラス1(脱落型)と関連か。
  • 精神症候の傾向は概ねEgger et al.(2003)と整合的。
  • 神経症に対する環境起因の脱落型という概念構成には無理がある。

結果まとめ

潜在クラス分析で不登校の類型化を行った。
自らの主張や社会問題の流行に影響を受けない形の整理を行った。
精神疾患・ひきこもりとの関連との関連があるタイプが判明した。

仮説の結果

仮説1:脱落型が不登校の大半である
→棄却。  不登校の8.1%。
仮説2:脱落型の方が精神疾患が少ない
→ 棄却。 精神疾患の種類が異なる。
仮説3a:不登校は性質の異なった群からなる
仮説3b:ひきこもりに発展する不登校は一部
→ 支持。
 ひきこもりと関連があるのは、小・中学校時代に社交性がなく友達がいないタイプの不登校。

考察

  • 不登校の「すべて」をひきこもりや貧困等と結びつけるのは誤りである。
  • 特定地域を研究した先行研究には偏りがみられる。
  • 環境や個人の特性によって不登校の予後は異なる。
  • 一様な「不登校対策」ではなく、いくつかのモデルを想定した支援を考える必要がある。